ロシア
(Russia)
出典:外務省 各国・地域情勢(2011年6月現在)
一般事情
1.面積
約1,707万平方キロメートル(日本の45倍、米国の2倍近く)
(参考:ソ連約2,240万平方キロメートル、日本の60倍)
2.人口
1億4,291万人(2011年4月)
(参考:ソ連2億8,862万4千人/1990年1月1日)
3.首都
モスクワ
4.公用語
ロシア語
5.宗教
ロシア正教、イスラム教、仏教、ユダヤ教等。
6.略史
年月 | 略史 |
---|---|
1917年 | ロシア革命 |
1922年 | ソヴィエト連邦成立 |
1991年 | ソヴィエト連邦解体 ロシア連邦誕生 |
2000年 | プーチン大統領就任 |
2008年5月 | メドヴェージェフ大統領就任 |
政治体制・内政
1.政体
共和制、連邦制(共和国や州等83の構成主体からなる連邦国家)
2.元首
大統領 メドヴェージェフ、ドミトリー・アナトリエヴィチ(2008年5月就任)
3.議会
連邦院(上院)と国家院(下院)の二院からなるロシア連邦議会
(1)連邦院
- 定数 各連邦構成主体(83)の立法機関から2名ずつ
任期 連邦構成主体首長及び議会ごとに異なるが概ね4〜5年
(2)国家院
- 定数 450(完全比例代表制)
任期 5年(注※2008年の法改正により任期は5年に延長。ただし、現行の任期は4年)
4.政府
首相 プーチン、ウラジミール・ウラジーミロヴィチ
外相 ラヴロフ、セルゲイ・ヴィクトロヴィチ
5.内政状況
(1)プーチン政権(2000年5月〜2008年5月)
プーチン大統領(当時)は、チェチェン紛争を終了させ、国内の分離主義を掃討したほか、「強い国家」の建設を掲げ、議会勢力及び地方勢力の掌握といった中央集権化や反政権の新興財閥の解体やマスコミの統制等、政治的な安定を追求。また、持続的な経済発展に成功し、「優先的国家プロジェクト」(保健、教育、住宅建設、農業)を通じて国民生活の向上を図った。退任直前の2008年2月には「2020年までの国家発展戦略」を策定し、イノベーション型の経済発展、肥大化した官僚主義や、行き過ぎた中央集権の改善等を提唱。
(2)メドヴェージェフ政権(2008年5月〜)
- (ア)施政方針:
メドヴェージェフ大統領はこれまでのプーチン路線を継承しつつ、経済の「近代化」を最重要視し、経済改革と同時に政治改革の実施の必要性を提唱しつつ、賢明な外交・内政を推進(経済、外交部分は各項目参照)。内政分野では、自由と法の尊重、汚職対策、マスコミの自由、司法改革、民主主義の発展、官僚制度の改善、国家が解決してくれるとの国民のメンタリティー打破、国営企業のあり方の見直し、将来を担う子供・若者支援等に取り組む。また、「優先的国家プロジェクト」(保健、教育、住宅建設、農業)を引き続き実施。- (イ)政治改革:
大統領の任期(4年から6年へ)及び国家院の任期(4年から5年へ)の延長、連邦院の構成変更、NPO法改正等、種々の政治改革を実現。また、2009年の年次教書演説で提唱した地方の政治改革の殆どを実現。さらに、2010年の年次教書では法案審議での公聴会実施の有用性を指摘。- (ウ)支持率:
メドヴェージェフ大統領及びプーチン首相の支持率は高水準を維持。- (エ)人口問題:
人口減少の克服が重要課題の一つ。補助金増額等による出生率向上やCIS在住のロシア人の自発的な移住促進を図っている。- (オ)テロ情勢:
チェチェン共和国、イング−シ共和国、ダゲスタン共和国をはじめ北コーカサス地方の治安は依然不安定。2010年1月、北コーカサス連邦管区を新設し、これまでの対テロ特別作戦に加え、経済・社会面からの情勢安定化策に着手した。最近、チェチェン共和国におけるテロ件数が増加傾向にある。北コーカサス地方以外では、2010年3月、モスクワにおいて地下鉄で自爆テロ事件が発生したほか、2011年1月、モスクワ南部のドモジェドヴォ空港で自爆テロ事件が発生。 - (イ)政治改革:
外交
1.全般
2008年8月、メドヴェージェフ大統領は、外交の5原則として、1)国際法の優位、2)世界の多極化、3)可能な限りでの友好関係の発展、4)国民の生命と権益の擁護、5)特別な利益をもつ地域の重視を発表。
2009年9月、メドヴェージェフ大統領は、論文「進め、ロシア!」の中で、上記5原則に加え、1)経済やグローバルな課題における西側民主主義諸国との協調、2)ユーラシア経済共同体、集団安全保障条約機構、CIS、上海協力機構、BRICsなどとの協力強化、3)歴史捏造の防止、4)国際機構の改革を主張。
2009年11月、メドヴェージェフ大統領は、年次教書演説において、「賢明な内政・外交を行っていく」と表明。また、対外政策はプラグマティックであるべきであり、その基準は「国民の生活水準の向上にどの程度貢献するか」であると述べ、外交をロシアの近代化のために行うと発言(外国からの資本、新技術、先端的な発想の獲得など)。
2010年11月、メドヴェージェフ大統領は、年次教書演説において、「外交政策は、国民に分かりやすい成果に現れなければならない」と表明。ロシアの近代化を進める上でパートナーになり得る国として、ドイツ、フランス、米国、 EU、中国、インド、ブラジル、韓国、シンガポール、日本、カナダ、イタリア、フィンランド、ウクライナ、カザフスタン等を列挙。
2.米国
ロシアは、米露関係の改善をめざすオバマ政権の方針を歓迎。
2009年9月、米国は、ロシアが懸念を表明していたミサイル防衛(MD)東欧配備計画の見直しを発表。これに対し、ロシアは、自国領を通じたアフガニスタン向け物資輸送で米国に協力。2010年4月、メドヴェージェフ・オバマ両大統領は、失効した第一次戦略兵器削減条約(START-I)に代わる文書として、新START条約に署名(2011年2月に発効)。協力に向けた両国の対話は国際問題・安全保障の分野から経済分野へと広がっており、2010年6月のメドヴェージェフ大統領訪米に際しては、対等・互恵の立場で近代化協力を進めていくとの合意もなされた。
3.EU/NATO
(1)EU:
EUはロシアにとって最大の貿易相手。ロシアは、EUにとって米国、中国に次ぐ第3の貿易相手。2008年8月にグルジアの南オセチア・アブハジア地域でロシア軍とグルジア軍が戦火を交えた際には、関係が一旦冷却化したが、その後徐々に回復。現在、メドヴェージェフ大統領は欧米諸国との近代化協力及び査証免除に期待を表明しており、これがロシア・EU関係の大きなテーマとなっている。
(2)NATO:
ロシアは、2010年2月に採択した軍事ドクトリンの中で、NATOの東方拡大(軍事インフラをロシア国境に近づけようとする試み等)を軍事的危険の第一位に挙げた。他方、両者の対話の枠組みとしてはロシア・NATO理事会がある。2010年11月にリスボンで行われた同理事会首脳会合は、対等なパートナーシップの下でアフガニスタン問題やミサイル防衛(MD)等に関する協力を進めていくという共同声明を採択。
(3)欧州安全保障条約構想:
ロシアは、欧州安全保障に関する新たな枠組みを構築すべきと主張し、2009年11月、「安全保障の不可分性」の原則などを骨子とする欧州安全保障条約草案を公表。
4.CIS諸国
ロシア外交の最優先地域。ロシアは、独立国家共同体(CIS)に加盟する旧ソ連の諸国を、伝統的な友好善隣関係や歴史的なつながりによって結ばれた特別な国々とみなして積極的な外交を展開している。また、CIS以外では集団安全保障条約機構(CSTO)、ユーラシア経済共同体(EAEC)、ロシア・カザフスタン・ベラルーシ関税同盟などの枠組みを通じて、一部の国々と関係の強化を図っている。ただし、ロシアと各国の政治的・経済的な関係の良し悪しは、国ごとに大きく異なっている。
※独立国家共同体(CIS): 1991年、バルト諸国を除く旧ソ連諸国により、外交問題の調整等のため設立。2005年、トルクメニスタンが加盟国から準加盟国となり、2009年、グルジアが脱退。
5.アジア太平洋諸国
(1)アジア太平洋地域全般:
ロシアは、発展するアジア太平洋地域への経済統合を通じて、極東シベリアの開発を進める方針を示している。2010年7月、メドヴェージェフ大統領は大使会議で演説し、アジア太平洋地域で関係を強化すべき国として、中国、インド、日本、ASEAN諸国等を列挙。また、2010年7月、ハバロフスクで演説し、アジア太平洋地域には経済発展の中心だけでなく、多くの問題に関して、政治的協力の中心も移っているという認識を示した。2010年11月の大統領年次教書演説では、アジア太平洋地域との統合は焦眉の課題であり、戦略的性格を帯びていると発言。
(2)中国:
ロシアにとって中国は、EUのオランダ、ドイツに次ぐ第3の貿易相手。長年の懸案であった国境問題が2004年10月に解決されて以来、経済・軍事面を中心に二国間関係が発展した。現在、中露両国は互いを「戦略的パートナー」と規定し、両国の協力関係が極めて高いレベルにあるとアピールしている。2009年6月の胡錦濤主席訪露、2010年9月のメドヴェージェフ大統領訪中など要人往来が極めて頻繁。
また露中両国は、中央アジアの旧ソ連諸国と共に上海協力機構を結成し、地域における利害を調整するとともに、軍事緊張の緩和、テロ・過激主義対策、麻薬不法流通対策などに当たっている。
(3)インド:
2000年に戦略的パートナーシップを宣言。ロシアにとってインドは最大の武器輸出相手国(2010年現在)。一連の要人往来を通じて軍事技術協力及び原子力協力を推進。BRICS首脳会合、露中印3か国外相会合などの枠組みでも対話を行っている。
※BRICS: ブラジル、ロシア、インド、中国及び南アフリカの5か国を指す。
国防
1.国防戦略
(1)「2020年までのロシア連邦国家安全保障戦略」(2009年5月承認)
国防政策として、戦略核戦力の保持、軍改革の実施、国境警備の強化、国防力の強化及び不拡散等国際的な戦略安定性確保のための国際協力の推進を謳っている。
(2)軍事ドクトリン(2010年2月承認)
「軍事的危険」として、「NATO東方拡大」、「MDシステム配備」等を記述。核の先制使用については、「ロシア及びその同盟国に対する核兵器、その他の種類の大量破壊兵器の使用に対する反応として、並びに国家の存立自体を脅威にさらすような通常兵器の使用を伴う侵略があった場合には、核兵器の使用に関する権利を留保する」旨記述。
2.軍改革
1994年及び1999年のチェチェン紛争、2008年のグルジア紛争の教訓を踏まえ、セルジュコフ国防大臣の就任を契機に軍改革を推進。「コンパクト化」、「近代化」、「プロフェッショナル化」がその目標とされ、スリム化、近代装備の導入、契約兵の比重増加に加え、指揮系統の簡易化や軍人の待遇改善に取り組んでいる。2010年6月〜7月に実施された極東方面での演習「ヴォストーク2010」において、軍改革の成果の暫定的な総括が行われ、肯定的な評価が与えられた。
また、2011年には、装備近代化プロジェクトである「2020年までの国家装備計画」が開始され、総額約20兆ルーブルの予算の下で近代化装備の比率を2020年には約70%まで高めることが目標となっている。
3.ロシア連邦軍
(1)2010年12月、4軍管区制(西部、中部、南部、東部)に移行。各軍管区に戦略コマンドが設置。
(2)総兵力 約104.6万人、準軍隊(国境警備隊、内務省軍等) 約44.9万人
ICBM(大陸間弾道ミサイル)376基、SSBM(戦略原潜)14隻、戦略爆撃機79機
- (ア)地上軍(約39.5万人)
(イ)海軍(約16.1万人):主要水上艦艇32隻、潜水艦59隻(戦略原潜を含む)、作戦機276機
(ウ)空軍(約16万人):作戦機1,604機(戦略爆撃機を含む)
(3)極東ロシア軍の兵力
- (ア)地上軍:4個司令部を配置(西部、中部、南部軍管区には2個司令部のみ)
(イ)海軍:潜水艦23隻(戦略原潜5隻を含む)、主要水上艦艇8隻、作戦機約80機及び海軍歩兵
(ウ)空軍:4個司令部を配置(西部3個、中部2個、南部1個司令部)、作戦機700機以上
4.新START条約の発効
2010年4月8日、米露両大統領が署名。2月6日、ミュンヘンにおいて米露間で批准書が交換され、同日発効した。
5.NATOとのMD協力
ロシアはNATOとのMD協力に合意したものの、NATOのMD構想が未だ明確でないことから、今後ロシアの核戦力に与えるインパクトと対比させつつ協力を進める旨を表明している。このように、ロシアはNATOが進めるMDの基本コンセプトに合意したのみであり、露NATO間の具体的な協力については、今後の交渉に注目を要する。
経済
1.主要産業
鉱業(石油、天然ガス、石炭、鉄鉱石、金、ダイヤモンド等)、鉄鋼業、機械工業、化学工業、繊維工業
2.GDP(2010年)
44.9兆ルーブル
3.経済成長率
1998年 | 1999年 | 2000年 | 2001年 | 2002年 | 2003年 | 2004年 |
---|---|---|---|---|---|---|
▲5.3% | 6.4% | 10.0% | 5.1% | 4.7% | 7.3% | 7.2% |
2005年 | 2006年 | 2007年 | 2008年 | 2009年 | 2010年 | |
6.4% | 7.4% | 8.1% | 5.6% | ▲7.9% | 4.0% |
4.貿易(2010年)
(1)輸出 4,001億ドル(石油、石油製品、天然ガス、鉄鋼、機械・設備)
(2)輸入 2,487億ドル(機械・設備、自動車、食料品、医薬品)
(3)主な貿易相手国 上位から中国、オランダ、ドイツ、イタリア、ウクライナ、ベラルーシ、トルコ、米国、日本、フランス、ポーランド
5.為替レート
27.98ルーブル/ドル(2011年6月1日)
6.経済状況
(1)マクロ経済と実体経済:
2009年GDP成長率は▲7.9%で、マイナス成長は1998年以来11年ぶり。政府は、金融機関・企業支援、国民生活の保護、雇用創出等の危機対策を実施。2010年成長率は4.0%。
(2)財政:
2010年の財政赤字は1.8兆ルーブル(約600億ドル)でGDP比4.0%。2011年の財政赤字はGDP比1.3%の見込み。
(3)「準備基金」と「国民福祉基金」:
原油価格下落への備え等のため、原油収入の一部を積み立てているが、両基金のうち「準備基金」を財政赤字の補填のため使用しているため、同基金の総額は減少中(2008年9月1,426億ドル→2011年4月現在271億ドル)。
(4)経済構造改革:
経済の「近代化」を最重要視。資源依存や外国製品輸入依存から脱却し、イノベーション型経済への転換を目指す。知識と人に役立つ技術、モノを作り出す賢明な経済の創出を標榜し、経済の5つの方向性(医療、エネルギー効率、熱核融合、宇宙・通信、IT)を提唱。
(5)経済特区:
国内産業の育成・発展や地方開発のため税制、関税及び行政上の優遇措置を定めた「経済特区法」採択(2005年)。これまでに「技術導入特区」(4ヶ所)、「工業生産特区」(2ヶ所)、「観光・レクリエーション特区」(7ヶ所)、「港湾空港特区」(3ヶ所)を指定。
(6)極東開発:
2007年1月、極東・ザバイカル発展国家委員会創設。2008年8月、「2013年までの極東・ザバイカル経済社会発展連邦特別プログラム」を採択。2009年12月、「2025年までの極東及びバイカル地方社会経済発展戦略」の政府決定承認。また、2011年3月、政府は同戦略実現のための69件の具体的計画を承認。