大口送金や金融商品換金、本人確認を義務付け

(出典:日経朝刊 平成14年1月23日)

金融庁「100万円以上」検討

 金融庁は金融機関に対し、現金振込みや金融商品の換金など大口の現金取引をする顧客の本人確認を2002年度内にも義務付ける方針。
 金融機関の自主ルールで3000万円以上の現金取引などに限り確認している今の仕組みを改め、新しい法律を作ったうえで、本人確認を法的義務とし、対象も百万ー五百万円以上に広げる。
 テロ集団の資金源を絶つためのテロ資金供与防止条約に沿った国内整備の一環だが、広範な現金取引で身元確認を迫られる。

テロ資金提供供与条約
 国連のテロ対策関連条約の一つ。公共物を爆弾などで破壊する集団などにする国際的な取り決めで、国連は、2000年1月に署名作業に入った。日本政府は、米同時テロを機にした反テロ機運の高まりを受けて2001年秋に署名、今(2002年)通常国会で必要な国内法を整備する計画。条約は、加盟国に対して次のことを求めている。
(1)テロ資金を提供する行為を罰する法律を整備する
(2)海外から逃げ込んだ容疑者を国内で場しない場合は、被害国に引き渡す
(3)テロ資金提供の疑いがある金融取引を当局などに提供させる
(4)金融機関に対して取引記録を保存させる

 新法は、「金融機関等による本人確認等に関する法律案」(仮称)といい、銀行など預金を取り扱うすべての金融機関と証券会社が対象。
 現在は、金融取引に伴う本人確認は全銀協などの業界ルールに沿って各金融機関が樹種的に実施している。対象は、預金口座などの開設と3000万円以上の現金取引。海外送金も外為法に基づく自主ルールで500万円超を対象に確認をしている。
 米国が1万ドル以上の現金取引すべての本人確認を法律で義務付けているのに比べ、日本は自主ルールで強制力が弱いとの指摘もあったため、新法により法的な義務とする。
 新法が義務付けるのは、口座開設と現金取引で、対象となる現金取引の額については、金融庁と金融界が調整中。
 現金取引は、(1)銀行や証券会社の窓口に現金を持参して、債券、投資信託などを購入したり、逆にこれらの金融商品を現金に換える、(2)自分の預金口座から多額の現金を引き出したり、他の口座に現金で振り込む、などの取引を指し、現金を伴わない口座間の振替えは含まない。
 本人確認の方法については、健康保険証でも認めるいまの自主ルールより厳しくし、写真がついている運転免許証やパスポートの提示を求める案が浮上している。金融庁は、免許証を持たない人の扱いについて詰めの作業を進めている。
 金融庁が新法を検討しているのは、昨年9月の米同時テロが契機。各国もテロ資金供与防止条約にそって資金管理の規制強化に動いている。
 ただ、匿名で資産運用できる割引金融債の売買なども、額によっては本人確認が義務付けられるだけに、反発がでる可能性もある。