不良債権売買 税逃れ モルガン・スタンレー系 180億円申告漏れ(詳細)

(平成14年5月29日)

 米証券大手「モルガン・スタンレー」グループの複数の不動産ファンド(米国)が日本で行った不良債権売買の投資事業で得た所得をめぐって東京国税局の税務調査を受け、2000年までの2年間に、計180億円の申告漏れを指摘されていたことが29日、分かった。追徴税額は加算税を含め約60億円に上るとみられる。

 米国にある会社が日本で得た所得は租税条約上、日本の課税権が及ぶが(注1)、これらの不動産ファンドは不良債権で得た利益を日本の課税権が及ばないオランダの法人にいったん移しており(注2)、東京国税局にダミー会社を使った「課税回避」と認定されたもよう。
 モルガン・スタンレー側は、不当として異議を申し立てた。

 関係者によると、これらの不動産ファンドの傘下にある日本国内の不良債権買い取り会社は、日本の金融機関が抱える不良債権を安値で買い取り、転売や賃貸収入で利益を上げた。

注1※日本で得た所得が、租税条約上、日本の課税権が及ぶものではない。
注2※日本の課税権が及ばないのは、オランダだけではなく、米国でも同じである。

 この部分は、不正確な表現であるが、この記事の最後まで読むと、全体としては間違った記述ではないことが理解できる。最後までじっくり読んで欲しい。

 不動産ファンドは、1999年以降、オランダの法人に出資し、この法人が商法上の「匿名組合」に基づき、不良債権の買い取り会社に出資する形をとっていた。

「匿名組合」とは(出典:スピードマスター「国際税務」P250)
 当事者の一方が相手方の営業のために出資をし、その相手方が営業により生ずる利益を分配することを約する契約をいう(商法535)。出資者(匿名組合員)と営業を行う相手方(営業者)とが共同して事業を行うものであるが、匿名組合員は、第三者に対して権利義務を負わず、表に現れないことから匿名組合の名がある。商法の文言から、一個の匿名組合契約における当事者は、営業者と匿名組合員の2当事者に限られると解されている。

 不良債権売買で得た利益は、匿名組合の契約上の出資者であるオランダの数社に「分配金」として支払われたが、日蘭の租税条約には、匿名組合の分配金に関する明文規定がなく、2年間の約180億円について納税していなかった。

 伝統的な国際課税の解釈においては、日蘭租税条約では、条約で明文で規定していない所得については、源泉地国(本件では日本)の課税が免除され、居住地国(オランダ)でだけ課税されるとされていた。

 不動産ファンドは、オランダ法人から利益分配を受けている。

(モルガン・スタンレーグループの話)日本を含め業務を行っている各国の税法を遵守し、納税義務を果たしていると信じている。

 結果として、日本での税金負担がないだけ、投資利回りが高くなる。
 なお、米国の投資ファンドが直接日本国内の不良債権買い取り会社から「匿名組合の分配金」の送金を受けた場合、匿名組合員数が10以上の場合、日米租税条約に規定する投資所得に対する軽減税率の適用がないため、グロスの金額に対して20%の所得税が源泉徴収されることになる。10未満の場合、総合課税されるため、確定申告することになる。
 国税局の調査を受けたと記事にあるので、通常であれば、総合課税されたということになろう。

(社会面)

米モルガン系申告漏れ  匿名組合利用の’節税’に網 国税当局、実体なしと判断。

 海外取引に対する課税を国税庁は、「最重要課題」と位置づけており、匿名組合を利用した’節税’策に今回、網をかけた格好だ。
 不良債権物件に投資する外資系企業の多くが利用しているとされている。

 国税当局が今回、課税処分に踏み切ったのは、出資したオランダ法人(匿名組合員)に会社としての実体がない点が決め手とみられる。 国同士は、それぞれ租税条約を結んでお互いの課税権について細かい取り決めをするが、日米租税条約は、米国にある会社が日本で得た所得に日本の課税権が及ぶとしているのに対し、日蘭租税条約では今回のようなケースは日本の課税権は及ばない。

 モルガン・スタンレー側は、この点を熟知していた可能性があると国税当局はみている。しかし、モルガン側は、課税処分を不当として同国税局に異議を申し立てており、両社の対立は今後も尾を引きそうだ。

 新聞に掲載された「匿名組合を利用した米不動産ファンド」の資金の流れ」によると、米国の不動産ファンドを直接課税したもののようである。実質課税による課税といえようか。
 その場合、米国の居住者である米国の不動産ファンドは、日米租税条約を適用されるが、同条約によれば、同条約に規定のない所得については、国内法どおり課税されるとされているので、結果、租税条約を締結していない国の企業と同様に、国内法の規定どおり、恒久的施設の有無にかかわらず、総合課税されることになる。 このオランダを使った節税策は、業界では、有名。オランダと「匿名組合」を組み合わせるスキームの場合、上述の課税関係を理解したしているのは、モルガン・スキームだけに限られないものといえるのではないか。

 こうした海外法人を介在させた課税処分を巡っては、合法的に節税しようとする企業と、課税を漏らさないよう監視する国税当局の対立が後を絶たない。

 最近では、旺文社(当時)に対する課税をめぐって同社と国税局の主張が対立して法定に持ち込まれ、東京地裁は昨年(平成13年)11月の判決で、「当時の法律では課税できなくてもやむをえない」と追徴課税処分(更正処分)を取り消し。現在も控訴審で争っている。

 この判決は、興銀の一審判決でも有名な藤山雅之裁判長の判決。
この判決と同じスタンスで判断されると、本件のケースも、地裁では課税処分が取り消されることになろう。
 なんとなれば、形式を充足していればいいということに終始しているからである。
 しかし、興銀事件の控訴審においては、逆転して国側勝訴になっており、旺文社事案の動向が注目される。

 国税関係者は、「世界各国にある多数の優遇制度を駆使されれば、日本の税制度では課税が後手に回ってしまう」と、課税処分できないことを認めている。

 調査体制を変更することで、このような節税策?に対する課税が変わるのではないかと思う。
 外部からはよく見えないが、ここ数年の調査体制の変更と、このような調査に対する位置づけ、調査に投下する日数の増加によって、数年前以前の外国法人を含む外資系企業への対応は激変しており、今や調査部において「外資系企業の調査」に一番スポットライトが当たってきている。
 隔世の感がある。

(教訓?)

 国際課税でいままで常識とされてきたことを、今一度確認し直す必要がある。 私自身は、オランダ、匿名組合、LLC、LP、SPCが絡んだ取引については、課税関係が安定期に入っているとは到底思えないので、距離を置いている。
 2〜3年前の租税条約や国際課税の本だけを鵜呑みにしないで、冷静に、課税のリスクを考えながら相談されることを強くお勧めします。