航空機リース投資に対する課税情報

(出典:平成16年3月16日 読売朝刊)

航空機リース投資、資産家70人一斉課税 課税当局「数十億円税逃れ」

 野村証券系のリース会社「野村バブコックアンドブラウン」が考案し、全国の資産家に出資を勧誘した航空機リース事業について、国税当局は、「課税逃れの商品」と認定した。
 70人の資産家が、この「租税回避商品」に出資することで所得を計数十億円も少なく申告しており、国税当局はこれを申告漏れとしていっせいに課税に踏み切った。
 申告漏れを指摘された出資者は、関東地方に21人、中部地方に6人のほか、大阪、福岡、北海道など全国にまたがっており、著名な経済評論家も含まれている。修正申告に応じなかった資産家については追徴課税(更正処分)した模様だ。

(1)「課税逃れの商品」だと、なぜ、課税になるのだろうか。 
(2)「租税回避商品」と、当局は、どういう基準で認定したのだろうか。それは、普遍的な基準なのだろうか。

 問題のリース事業投資は、名古屋国税局が2002年に11人に対し計5億円を先行課税している。国税当局はその後、2年をかけて調査を続けた結果、「実態は税逃れを主な目的とする投資商品で、放置できない」との結論に達した。

「実態は税逃れを主な目的とする投資商品で、放置できない」とあるが、「税逃れを主な目的とする」ということが、直接的な課税の根拠となるのだろうか。

 この投資は、野村バブコックが1997年から2000年にかけて延べ101人を勧誘。資産家らは、5千万円から2億円を出資して、同社関連会社とともに「エヌビービー・ヒースロー・リース事業組合1号」など7つの投資組合を設立した。
 出資総額は、約72億円(1ドル114円で一律換算した場合)に上る。組合は、出資金と金融機関からの借り入れで、ボーイング社などの航空機を購入し、航空会社にリースしていた。

 投資組合の形態は、任意組合なのか匿名組合なのか。そして、どう事業組合は、どこで設立された組合なのか(国内の組合か国外の組合か?)。
→ドル換算とあるので、米国のLLCに対する出資なのか
 出資金は72億円。レバの割合はどの程度なのか。
(出資金:借入金の割合を、1:2程度とすると、資金総額は200億円。大型ジャンボ機1機を7つの事業組合に分けていたということだろうか?)

 このリース事業では、当初の5年間は、航空機の減価償却の費用がリース料収入を上回るため赤字がでる。投資した資産家は、この赤字を「事業で多額の損失が出た」として、本来の自分の所得から差し引いて申告、所得税を免れていた。

→逆に、5年経過後は、黒字になるので、課税所得が発生する。契約の全期間を通じると、取引全体の利益が課税される。ただし、当初の5年間だけは節税メリットがある。
→(投資家にとってみると、赤字が終了した直後、5年経過後に航空機会社がリース契約を解約して、全体の投資スキームが成り立たなくなってくれると絶好のものとなる。)
このため、航空機のリースについては、中途解約ができないような措置が、契約全体の中に含まれていなければならないことになっている。具体的には、航空会社がリース契約を中途解約した場合、航空会社のメリットを超える程度の違約金を追加で支払う旨の規定が導入されている。これにより通常の航空機のレバが認められているようだ。
 そして、たぶん、航空会社は損な取引になるので、中途解約はしないだろう、といわれている。(実態は不知。)

 最終的には、組合が航空機を売却し、出資額に応じて分配される仕組で、この分配金と所得税の節税部分が出資者の‘利益’となる。

 最終的にがいつなのかが問題。契約期間が満了し、その後、飛行機を売却した場合、上述のとおり、契約期間全体でみると、課税のポジションになっているので、「所得税の節税分」などなくなってしまっている。後半に、当初5年間の節税分を上回る納税をするからであう。
 一方、上述のとおり、中途で解約された場合、「所得税の節税分」が利益となる。
 2002年に名古屋国税局で課税したということは、1997年に契約し、赤字の5年間が経過した後、中途で解約され、「所得税の節税分」が確定したということなのだろうか。

 この分配金は、二つに分けて考える必要がある。
出資金の戻りと「航空機売却による利益」に分ける必要がある。利益は、あくまでも、「航空機売却による利益」であって、分配金そのものではないはずである。

 これに対し、国税当局は、
(1)出資者が航空機の売却時期の決定に関与できないなど、事業運営は野村バブコックに一任されていた、
(2)出資者が事業でリスクを負わない仕組になっている、
などの理由で、「出資者の主な目的は、事業参加ではなく、租税回避」と認定した。

(1)通常、リース期間中、航空機は出資者の任意に売却できない。ファイナンスリースなので、当然の処理である。当然、野村バブコックでも任意の時期に売却できない。契約違反だからである、
(2)事業でリスクを負わないとは、どういう意味なのだろうか。この全体のスキームというのは、航空会社が倒産しないことを前提にしている。昨今の米国のUAの倒産の例にもあるように、このスキームも、間に入っている航空会社、銀行などが倒産した場合、出資金そのものの回収が疑問とされる、という意味ではリスクはあるのではないだろうか。
 以上によれば、課税当局の否認の理由は、もっと別にあるのでないか、と思ってしまうのは、私だけであろうか。

航空機リース「税逃れ」 同様商品、80年代後半から 福祉事業、映画配給 組合、人為的に損失

(解説)
国税当局が「租税回避商品」として一斉課税に踏み切った航空機リース事業。
1980年代後半から、中小企業者らの間で、同様の特異な投資商品を購入して税逃れを図る事業が続出していた。

この当時の中小企業者=法人に限定。
個人が投資家として現れるのは最近ではないのか。

 何種類もある租税回避商品は、海外の航空機や福祉事業、国際的な映画配給事業などに投資する形をとっているが、投資にそぐわない特徴を持つ。

 一つは商品を考案した証券・銀行系企業が「タックス・プランニング(節税策)に有効」と宣伝し、その事業で人為的に課税上の損失を生み出していることだ。
 事業に投資して得られる利益よりも’節税’による利得の方がはるかに多い。

 その仕組は、資産家に高額な海外事業資産を購入させることから始まる。事業のための資産は使うことによって毎年、その価値が減少していくから、税務申告でこの資産の購入資金を何年かに割り振り、必要経費として落とし続ける(減価償却)ことができる。
 今回のような航空機の場合、一機当たり約35億円もの減価償却費が発生する計算で、この課税上の損失を自分の黒字の所得と相殺し、申告所得を圧縮していた。

 今回の事案についていうと、適切な説明とは言えないと思う。新聞記者が自ら書いたとすると勉強不足ではないか。「課税のロジック」としてはありえる、と思う。
 レバレッジドリースは、リースの全期間所有していると、税務的には「ニュートラル」な商品である。新聞の記事でも書いてあるが、初期の5年間赤字が先行するので、その期間は、節税メリットがある。
 しかし、その後、税務上の利益がでているにもかかわらず、引き続き所有していると、当初の節税メリットを相殺する課税があるだけでなく、取引全体の利益に対する課税も出てくることになる。
 したがって、「中途解約が絶対ない」とすれば、期間損益の問題にしかすぎない。当初赤字、後半黒字で、全体の納税額は、均等に利益がでてきた場合と同じということになる。

 野村系企業は7つの投資組合を設立していたが、その投資効果は、「税の軽減効果」と「航空機リース事業の効果」との割合がほぼ9対1だったという。
 これが「投資組合の目的は税逃れにある」とする国税当局の論拠の一つとなっている。

 レバレッジドリースは、そもそも、投資家の当初期間の「節税メリット」をリースを受ける航空会社が一部分配分されることで、航空会社が、自己が直接航空機を保有するより有利になるために広まったものである。
 したがって、レバレッジドリースであるかぎり、税のメリットが全然ないと、商品としての価値がないものと思われる。
 この場合、法人が投資家の場合の「レバレッジドリース」との対比が重要だと思う。税の軽減効果が、法人の場合と同程度であれば、個人の納税者だけに酷な取扱いとなり、「平等原則」違反と言われる可能性があるのではないか。

 もう一つの特徴は、投資家らは、事業そのものにはほとんど関与していないことだ。
 実質的に事業をコントロールしているのは、仕組を考案した企業側で、一部の投資家は、課税当局の調査に対し、「英文の契約書類は見ておらず、リース事業をしている認識はなかった」と認めている。

 「投資家が事業そのものにはほとんど関与していないことだ」とは、当たり前のことである。事業そのものに関与していたら、営業者=ジェネラル・パートナーだ。投資家ではない。
 そもそも、取扱い通達で、民法上の任意組合形態で投資をした場合、導管(パススルー)としての組合の損益を、自己のものとして計算、申告すると規定していることが問題とされるべきだと思う。
 本人が、「英文の契約書類は見ておらず、リース事業をしている認識はなかった」と言ってみても、契約書上で投資家となっている以上、仮に、今回の英国の航空会社が倒産した場合、出資金額のかなりの部分は戻ってこないのである。
(出資金額は、全額戻ってくるかも知れない。ノンリコースローンの場合、損するのは、貸付けた銀行だけである。その意味では、出資金額しかリスクを負わないのに、それ以上の損失を課税上控除するのは問題とするのが、本筋か?)

 今回の航空機リース問題では、名古屋国税局が先行課税してから、国税庁が最終判断を下すまでに丸2年もかかった。
 先行課税が訴訟に発展し、「負ければ所得税制が揺らぐ」とする国税当局が慎重な調査を続けたためだ。
 その間、金融界では同様な商品が横行し、「当局も手を出せない」(証券会社担当者)との観測も流れた。
 調査の迅速化や専門調査官の育成など、追徴課税が残した課題は多い。

 問題は、ルールの変更が知らされていなかったことではないのか。ストックオプションの場合もそうだった。匿名組合の課税関係も、当局の見解=更正処分ということで、事前に、当局の見解が公表されなかった。
 現行の法律、政令、規則、諸通達等を読めば、個別の課税問題が氷解するほど、現実は単純ではないようである。

投資組合とは

(解説)
 複数の人たちが共同経営者として投資し合い、営利追及のための事業を行う組合。
 航空機リースのほか、ベンチャー企業の支援や映画制作など様々な目的で作られる。
 組合自体は課税されないが、組合として得た収入や経費などは分配されたうえで、各組合員ごとに申告する。

 左記の組合の課税関係の説明によると、本件の「事業組合」は、民法上の任意組合の取扱い(所得税基本通達36・37共ー19・20)を基礎としているようだ。