相談と回答

 掲示板等の質問に対して、主任研究員が回答いたします。

ワーキングホリデーで滞在するカナダで得た所得に係る課税

(平成22年1月7日)

(相談内容)
 平成22年2月から1年間カナダにワーキングホリデーで滞在するがこの間カナダで得た所得(給与)に係る課税はどうなるのか?

 鰍ャょうせい発行の「市町村税実務提要」P156以降に、ワーキングホリデーの目的は休暇であり、旅行中と考えられるので、賦課期日現在出国中であっても出国前の住所地に住所があるものとすべき旨記載されています。これによるとワーキングホリデーは昭和41年の通達「外国人等に対する個人の住民税の取扱いについて」11(1)の「その者が法施行地外において、継続して1年以上居住することを通常必要とする職業を有する場合」には該当せず、居住者扱いとなり、国外での所得も日本の課税対象になるように読めるのですが、この解釈で正しいでしょうか?

(回答)
知り合いのところで「市町村税実務提要」が見つけられなかったので、一般的な回答で失礼します。

1 実務的な観点からの回答
 ぎょうせい等の大手出版社のこの種の加除式については、一般的に、行政当局の担当部署の人たち(又は過去にそこで働いた人たち)が現行の取扱い等に基づいて記述されているものです。したがって、ここで、ワーキングホチデーについて「旅行中」との記述も、現行の取扱いに基づいて記述しているものと思いますので、仮に、総務省の担当課に照会なさっても同様の結論を言われるものと思います。
 よって、自治体の担当者としては、記述のとおり取り扱うのが妥当なものと思います。

2 私の意見
(1)結論
 ワーキンホリディの認められる期間の前に出国しており、現地での就労の契約が1年間であれば、出国の時に、あらかじめ1年以上海外で継続的な職業を有することから、非居住者となり、住民税の課税はないものと思います。
(2)考え方
イ 地方税の課税は、所得税の課税に準拠している。
道府県民税及び市町村民税は、基本的には、所得税の課税に準拠して課税しているものと思います。というのも、税務署での課税実績を、通常は、そのまま地方税の課税の資料としているからです。原則として、賦課期日(1月1日)に住民票の有無で住民税の課税の可否を判定することを除くと、居住者、非居住者の判定は、所得税法に依拠しているものと考えられます。
ロ 昭和41年の通達「外国人等に対する個人の住民税の取扱いについて」
 この通達ができたときは、その当時の所得税の取扱い(旧通達、昭和38直審(源)66「7」)に準拠して規定したものと思いますが、現行の所得税の規定は、居住する地に職業を有する場合は、所得税法施行令第14条第1項(国内に住所を有する者と推定する場合)又は同15条第1項(国内に住所を有しない者と推定する場合)の規定により推定するものとされています(所基通3−2)。
 したがって、ワーキングホリデー(通常1年間)の間就労を事前に契約して、それ以前に出国した場合は、その出国の時点で非居住者ということになります。これは、交換教授等が海外での留学期間が1年でそれ以前に出国した場合と同じ取扱いになると考えられるからです。
ハ まとめ
 以上のとおり、ワーキングホリデーといっても、そもそも海外の就労のためのものですので、その契約により、場合によっては、非居住者としての取扱いになることもあると考えます。

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支店登記とPE課税

(平成17年8月4日)

(相談内容)
 弊社は、米国の化学薬品ベンチャーの日本支店を立ち上げたところなのですがこの際に司法書士より、『支店登記をすると、自動的にPEに該当するので105%マークアップ等の方法により法人税申告をしなければならない。』とアドバイスされました。私の理解では、情報提供等4号に該当する限り、支店登記されていようが課税関係は生じないと考えていたのですが間違いでしょうか?

(回答)
Q1:支店登記をすると、自動的にPEに該当するのか。
A1:理論的には、支店登記をしたからといって、事業を行う一定の場所である恒久的施設と認定されるわけではありません。そこで、現実に事業活動を行っているかどうかによります。

Q2:105%マールアップ等の方法により・・・
A2:課税の現場では、105%の適否が非常に問題とされる場面が多々あるようです。事業活動の機能等を総合的に分析して、大して付加価値がないような活動をしているのであれば、認容されると考えるのが無難といえます。

Q3:情報提供等4号に該当する限り、支店登記されていようが課税関係は生じないのか。
A3:質問の趣旨がよく分かりませんが、情報提供等のその法人にとって、補助的な機能しかない場合、課税関係は生じないということはできます。これは、補助的な機能しか果たさない場所を、支店等の恒久的施設をから除外している効果といえます(法令185の2)。しかし、情報提供をするといっても、これは本店のためだけに限定されていますので、本店がペーパーで、関係会社のために情報提供している場合は、これに該当しないこととされていますので、課税関係が生じることになります。
 支店登記をされるということは、支店活動という事業を行うために登記するという大前提があることに注意する必要があります。単に、情報収集して本店に情報を提供する場所を設けるのであれば、駐在員事務所にすべきです。
 以上、アウトラインを説明しましたが、現況の外国法人課税のアグレッシブさを考慮すると、あまり単純に考えるのは危険ではないかと思います。具体的な課税関係については、顧問税理士などの専門家に相談されることをお勧めします。

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任意組合とPE

(平成16年10月19日)

(相談内容)
 先日公表された、新しい所得税基本通達に下記のものがありました。
 これは、非居住者である任意組合の出資者は、国内にPEを有するものと判定する、ということになるのでしょうか。

<恒久的施設を有する組合員の判定>
164-7 組合契約事業は、組合員の共同事業であるから、組合員である非居住者が法第164条第1号から第3号までに掲げる非居住者に該当するかどうかについては、各組合員がそれぞれ国内における組合契約事業を直接行っているものとして判定することに留意する。

(回答)
 任意組合の出資者が、必ず、国内にPEを有すると判定されるわけではないといわれると思いますが、結果的に、国内にPEを有すると認定されることになると思います。
 理由は次のとおりです。

(1)所基通164-7(恒久的施設を有する組合員の判定)では、組合員の共同事業であるから、直接行っているものと判定するとあります。この場合、組合契約事業というのは、所法161条1号の2に規定する組合契約に基づいて(国内で)行う事業をいう、という前提を入れていますので、これに該当しないとPEを有しないことになります。

(2)しかし、今回の通達の追加があり、161-6の3(国内において行う組合契約事業から生ずる利益の範囲)で、国内源泉所得から生じたすべての利益が含まれると述べています。これは、161条の1号に規定している「国内において行う事業から生ずる所得」だけで判定しないということを明らかにしたものといえます。

(3)ところで、PE認定と連動する「国内での事業から生ずる所得」とは、結局通達等で明示されていません。結局、社会通念上というか常識で総合的に判断するものと思われます。

(4)(以下は、私の独断と偏見です)
 「国内での事業から生ずる所得」=事業所得となります。
 この事業所得という概念は、法人、個人に共通するものです。個人の場合はPEの認定のハードルが低く、法人の場合は高い(規模等が大きい)などということは、どこにも書いていません。国際課税の課税の常識として、条約等に明記していないことは、その国(日本)の基準を(のどれでも)採用していいといわれています。規定していないからです。
 そうしますと、極端な話、個人レベルで事業所得に該当するものは、国際課税の場面でも、それに該当するということになります(この極端な考え方に、賛同する法人税の担当者は少数派ですが、ロジックとしては、おかしくないといわれていますが、バランス等を欠くのではないかといわれています。)。
 問題とされるような任意組合の活動や規模等を考えると、最低でも億単位、通常は二桁の億単位の出資金に、レバレッジをかけますので、かなりの規模に膨れます。
 投資事業という観点からみても、事業所得としてのハードルを十分に超えていると思われます。内外無差別の考え方を援用するまでもなく、わが国の法人のかなりの部分は、資産規模や収益が1億円未満のものと思われますので、裁判所においても、十分、国内で事業を行っていると認定されるものと思われます。

(5)この認定の問題点は、アクティブな投資の場合は、それなりの事業実体、組織、陣容をそろえるので、PE認定しても、納得が得られるのでしょうが、パッシブの場合(単に、日本の上場会社の株式を保有するだけというもの。当面は、配当と株式の値上がり等期待で長期保有目的)、規模が大きいので、これでも認定するのかという問題がでてきます。(しかし、現状で、このようなパッシブ投資について、PE認定の噂は聞いていません。)

(6)現在の課税当局の立場を推測すると、わが国で、それなりの事業展開をしている場合、何らかの拠点(代理人PEか事業所等の認定)がなければ活動ができないだろうと思われています。これは、今後も変わらないと思いますので、その活動が、「国内での事業から生ずる所得」と認められると、必然的に、活動のどこかがPE認定されることになる可能性大です。

(7)そうしますと、任意組合の組合員は、組合契約事業の共同事業に参画して、直接行っていると取り扱うわけですから、結局のところ、当局に狙われた任意組合の組合員は、国内にPEを有するものということになろう、というわけです。

 これにより、日本からかなりの投資が撤退していく可能性がありますが、それは、税務と直接関係ないことです。当面は外国からの投資家に対して、今までに比べてシビアな課税が続くと思われますが、これでやっと米国の課税と同程度になったという有力な意見もあります。

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NZ企業に支払うソフトウエア等の対価の取扱い

(平成16年9月30日)

 現在、取り組んでいる仕事で、NewZealand(NZ)のソフトウェア企業との取引が発生します。この企業からは、ソフトウェアのライセンスとSystem Engineer(人の作業/サービス)を購入します。
 この場合、租税条約に基づく税率は何%掛るのでしょうか?

 対ニュージーランド租税条約は、非常に古い条約で、決めてある項目が少ないのが特徴です。
 本条約では、使用料条項の規定がありませんので、国内法(所得税法)がそのまま適用されることになります。したがって、税率は、20%になります。

 また、課税範囲はソフトウェアとSEの双方に掛るのでしょうか?もしくは、ソフトウェア(製品)のみとなるのでしょうか?

 国内法で、使用料とされる範囲です。一般的にいうと、ソフトウェアの部分だけといえます。
 しかし、SEの部分(=NZでの役務提供とみて、通常は、日本の課税なし)ですが、現地での原価(直接費と間接費の合計)に適切な利益を加算した程度であれば、通達の適用により、わが国での課税はないこととされています。そうでない場合は、SEの部分も含めて、使用料として課税されます。
 税務調査のときに、そのような資料を用意できるのであれば、SE部分について、わが国での課税はないものと思われます。

 NewZealandの企業は日本国内に法人、支店、事務所などの恒久的施設はもっておりません。

 今回は、租税条約の適用がありませんので、PEの有無は直接的には関係ありません。

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過少資本税制に係る質問

(平成16年7月20日)

 過小資本税制についてご教示いただきたく、質問をさせていただきます。
 親会社から海外子会社へ資金供与する場合、過小資本税制に抵触しない限り資本金としてよりも親子ローンとして供与した方が、支払利息が損金算入されるため子会社の税務上のメリットがあると思います。

 そのとおりだと思います。

 ここで疑問に思いますのは、親会社、子会社を含めたグループ全体での税務メリットを考えると、資本金として資金供与して海外子会社で損金算入が認められなくても、親会社で配当金についての間接外税控除が認められるので、結局、資本金形態でも親子ローン形態でもグループ全体としての税金負担は同じなのでしょうか?

 同じではないようです。通常、間接外税でも、完全には二重課税の調整はできないようですし、キャッシュフローのタイムラグが、企業には負担と考えられるようです。
 そして、欧米では、資本のコストというのが重視される傾向があるので、出資より借入れを重視するようです。

 そうだとすると、企業が海外子会社の資本金をできるだけ少なく、借入金を多くしようとする動機は、税務上のメリットを追求したものではなく、それ以外の理由によるのでしょうか?

 海外の株主というのは、配当を重視する傾向があります。そして、配当が少ない場合、資金の無駄遣いというか、より効率的な方向へ移行する傾向があるようです。米国では、なにより、殆ど無リスクの米国債への投資との比較がいつでもされるようです。また、タックスプランニングでは、両国間の課税方法の相違による貸付形態の有利性を説いたものもあるようです。

 以上、海外子会社への資金供与について、資本金と親子ローンのどちらが良いのか、判断に困っております。
 お手数をお掛けしますが、よろしければ、ご教示ください。よろしくお願い申し上げます。

 残念ながら、上記程度の簡単な説明しかできませんが、具体的に税務の専門家に相談をされる場合は、親会社の母国での税制と、日本での税制などを加味して、検討する必要があるものと思います。

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