任意組合とPE

(平成16年10月19日)

(相談内容)
 先日公表された、新しい所得税基本通達に下記のものがありました。
 これは、非居住者である任意組合の出資者は、国内にPEを有するものと判定する、ということになるのでしょうか。

<恒久的施設を有する組合員の判定>
164-7 組合契約事業は、組合員の共同事業であるから、組合員である非居住者が法第164条第1号から第3号までに掲げる非居住者に該当するかどうかについては、各組合員がそれぞれ国内における組合契約事業を直接行っているものとして判定することに留意する。

(回答)
 任意組合の出資者が、必ず、国内にPEを有すると判定されるわけではないといわれると思いますが、結果的に、国内にPEを有すると認定されることになると思います。
 理由は次のとおりです。

(1)所基通164-7(恒久的施設を有する組合員の判定)では、組合員の共同事業であるから、直接行っているものと判定するとあります。この場合、組合契約事業というのは、所法161条1号の2に規定する組合契約に基づいて(国内で)行う事業をいう、という前提を入れていますので、これに該当しないとPEを有しないことになります。

(2)しかし、今回の通達の追加があり、161-6の3(国内において行う組合契約事業から生ずる利益の範囲)で、国内源泉所得から生じたすべての利益が含まれると述べています。これは、161条の1号に規定している「国内において行う事業から生ずる所得」だけで判定しないということを明らかにしたものといえます。

(3)ところで、PE認定と連動する「国内での事業から生ずる所得」とは、結局通達等で明示されていません。結局、社会通念上というか常識で総合的に判断するものと思われます。

(4)(以下は、私の独断と偏見です)
 「国内での事業から生ずる所得」=事業所得となります。
 この事業所得という概念は、法人、個人に共通するものです。個人の場合はPEの認定のハードルが低く、法人の場合は高い(規模等が大きい)などということは、どこにも書いていません。国際課税の課税の常識として、条約等に明記していないことは、その国(日本)の基準を(のどれでも)採用していいといわれています。規定していないからです。
 そうしますと、極端な話、個人レベルで事業所得に該当するものは、国際課税の場面でも、それに該当するということになります(この極端な考え方に、賛同する法人税の担当者は少数派ですが、ロジックとしては、おかしくないといわれていますが、バランス等を欠くのではないかといわれています。)。
 問題とされるような任意組合の活動や規模等を考えると、最低でも億単位、通常は二桁の億単位の出資金に、レバレッジをかけますので、かなりの規模に膨れます。
 投資事業という観点からみても、事業所得としてのハードルを十分に超えていると思われます。内外無差別の考え方を援用するまでもなく、わが国の法人のかなりの部分は、資産規模や収益が1億円未満のものと思われますので、裁判所においても、十分、国内で事業を行っていると認定されるものと思われます。

(5)この認定の問題点は、アクティブな投資の場合は、それなりの事業実体、組織、陣容をそろえるので、PE認定しても、納得が得られるのでしょうが、パッシブの場合(単に、日本の上場会社の株式を保有するだけというもの。当面は、配当と株式の値上がり等期待で長期保有目的)、規模が大きいので、これでも認定するのかという問題がでてきます。(しかし、現状で、このようなパッシブ投資について、PE認定の噂は聞いていません。)

(6)現在の課税当局の立場を推測すると、わが国で、それなりの事業展開をしている場合、何らかの拠点(代理人PEか事業所等の認定)がなければ活動ができないだろうと思われています。これは、今後も変わらないと思いますので、その活動が、「国内での事業から生ずる所得」と認められると、必然的に、活動のどこかがPE認定されることになる可能性大です。

(7)そうしますと、任意組合の組合員は、組合契約事業の共同事業に参画して、直接行っていると取り扱うわけですから、結局のところ、当局に狙われた任意組合の組合員は、国内にPEを有するものということになろう、というわけです。

 これにより、日本からかなりの投資が撤退していく可能性がありますが、それは、税務と直接関係ないことです。当面は外国からの投資家に対して、今までに比べてシビアな課税が続くと思われますが、これでやっと米国の課税と同程度になったという有力な意見もあります。