新日石284億円申告漏れ スワップ取引 原油高騰で差益
(出典:日経朝刊 11月2日)
新日石石油が東京国税局の税務調査を受け、原油価格の変動リスクを避けるためのヘッジ取引に絡み、2005年3月期までの2年間で約284億円の申告漏れを指摘されたことが1日、分かった。同社が同日発表した。過少申告加算税を含めた追徴税額は計125億円。同社はいったん全額を納付した後、課税処分を不服として異議申し立てを検討するという。
新日本石油によると、同社は、原油価格の変動リスクを回避するために金融機関とスワップ取引契約を締結。原油の値上がりも想定して10年程度の長期で設定した固定価格を毎月金融機関に支払うが、原油高で固定価格より原油価格が上がり、単年度ベースで新日本石油側に差益が発生。この差益に課税されたという。
通常、利幅や損失が一定の範囲内であれば「有効なヘッジ取引」と認定され、利益が生じても期末ごとの課税の対象とならないが、大幅な差益だったため、国税局が「ヘッジ取引に当たらない」と判断したと見られる。
税務上、損益が繰り延べられるものとして、平成12年の税制改正で導入されたヘッジ取引がある。時価評価の対象とされていないヘッジ取引の対象の損益の計上時期に合わる来る延べヘッジ処理(法61の6)と、ヘッジ取引対象の時価評価を行う時価ヘッジ処理(法61の7)がある。
新聞記事だけだと、内容がよく分からないが、「大幅な差益だったため」というのは・・・?
現実のディリバティブ取引は当初の法律が予定したものを超えて多種多様になっているので、これらの規定を一字一句を厳密に適用すると、かなりの割合で、ヘッジ対象にあたらないケースがでてくるように思われるが、その一例なのではないか。
ハリポタ翻訳者35億円申告漏れ 国税局指摘に異議「スイスで納税」
(出典:日経夕刊 7月27日)
ファンタジー小説「ハリー・ポッター」シリーズ翻訳者の松岡祐子さんが東京国税局の税務調査を受け、2004年までの3年間で約35億円の申告漏れを指摘されていたことが26日、わかった。追徴税額は過少申告加算税を含め7億円を超すもよう。
松岡さんは、「スイスに居住している」としてスイスで納税し、日本では税務申告していなかった。
国税局は、実質的に居住実態があったと認めて認定したが、松岡さんは課税処分を不服として異議を申し立て、スイス居住を認めてもらうために日本とスイス両国間の相互協議を申し立てたと見られる。
関係者によると、松岡さんは国内での出版権をもつ出版社「静山社」(東京・新宿)の代表を務め、同社からハリー・ポッターシリーズの翻訳料を受け取っていたが、スイスに住み始めた01年(01年にスイスの永住許可を取得)から、日本で税務申告していない。松岡さんの場合は、静山社が翻訳料の20%を源泉徴収し納税していた。
居住性の有無が判断が争いになったもの。
スイスの居住者であれば、日本とスイスの租税条約の適用で、源泉徴収税は、租税条約に関する届出をだせば10%に軽減される(同条約10条)が、今回は、20%で源泉徴収していたため、追徴税額がその分、少ないもののようである。
本件の内容の詳細はわからないが、そもそも外国の永住許可は、外国での居住を推定させるものではないので、一般的に、内国法人の代表取締役が非居住者となるのは、日本での滞在期間がないか、ほとんどない場合を除いて、非常に難しいものと考えられている。
今後の展開を見守りたい。
「三城」会長30億申告漏れ メガネ大手 国内居住認定か
(出典:産経朝刊 7月11日)
メガネ販売大手で東証1部上場の「三城」(東京都中央区)の多根裕詞会長(75)が平成10年から15年にかけて、従業員らに売却した株式約700万株の売却益を申告していなかったとして、大阪国税局が申告漏れを指摘していたことが10日、分かった。
申告漏れの総額は、約30億円にのぼるとみられ、同国税局は無申告加算税など約5億5000万円を追徴課税(更正処分)した(注1)。
多根会長は、スイスに居住しているとしたが、国税当局は、兵庫県姫路市に居住の実態を認定したものとみられる(注2)。
関係者によると、多根会長は10年から15年にかけて、三城の株式を多数の従業員に相対取引で売却。さらに、15年2月、617万株を多根会長が100%出資する英国の資産管理会社に売却した。こうした売却株式数は約700万株、約100億円に上るとみられ、多根会長の取得価額を差し引いた約30億円が利益になるとみられる。
12年の税制改正で、日本国籍を持つ人が海外に住み、海外財産をもらった場合でも原則課税となった(注3)。
居住性の有無の判断が争いになったもので、武富士事案では贈与税での国内に住所の有無が問題となったのに対し、本件では、所得税法上の住所の有無が問題となったようである。
私見では、相続税法と所得税法では、居住性の判断が異なっていると思うのだが、その当たりの違いは、今後明らかにされるのであろうか。
注1※平成16年1月1日以降の上場株式の譲渡だと、国税地方税を合わせて10%の税率による。
注2※日ス租税条約によると、株式の譲渡収益については、原則として、居住地国(スイス居住者ならスイス)で課税。その他の所得も居住地国課税なので、結局、スイス居住者が日本の株式を売却しても、スイスで課税。(スイスで実際に課税かれるかどうかは、確認していない。)
注3※相続税及び贈与税に対する改正で、本件は所得税の課税関係なので、本事件とは直接の関係がないのではないか。
ソニー、744億円申告漏れ 海外子会社との取引巡り
(出典:日経夕刊 6月30日)
ソニーと子会社のソニー・コンピュータエンタテインメント(SCE)は30日、東京国税局の税務調査を受け、海外子会社との取引を巡り、2004年3月期までの6年間で総額約744億円の申告漏れを指摘されたと発表した。
追徴税額は総額約279億円。国税局は海外子会社との取引に対し、本来は日本で申告すべき所得があったとする「移転価格税制」を適用したものとみられる。
ソニーは課税処分を不服として異議を申し立てる方針。
同社は、昨年も、1998年から02年までの5年間の海外子会社の取引について、同税制に基づく約214億円の申告漏れを指摘され、異議を申し立てている。
ソニーによると、SCEが行った99年度から04年度の米国子会社とのゲーム事業取引について、国税局は日本の本社への利益配分が少なく、所得を米子会社に移したと認定。また、複数の国の子会社との間で取引したCDやDVD事業でも同様の認定をした。
ソニーは「これまで各国の税制に従い適正な納税を行ってきたと考えている。この更正通知には遺憾であり、今後速やかに当局に対して異議申し立てを行う」としている。
両社は279億円をいったん支払うが、06年3月期連結決算で引き当て処理済みで、今後の業績への影響はないという。
大阪国税局だけでなく、東京国税局でも大型の移転価格事案が発生したようである。
異議申し立てと並行して、租税条約に基ずく相互協議の申立てにより、二重課税の調整を図るものと思われる。
武田、1200億円海外移転 大阪国税局指摘570億円追徴 異議申し立て(注1)へ
(出典:日経朝刊・日経金融 6月29日)
武田薬品工業は、28日、医薬品取引をめぐり2005年3月期までの6年間に約1223億円の法人所得を米国の合弁会社に移転したと大阪国税局から指摘されたと発表した。
移転価格税制に基づく指摘で、追徴税額は地方税を含め約570億円。同税制で指摘された額として過去最高。
同社は、単独で販売価格を決定できないことや、合弁会社を共同で設立した会社が、昨年、販売価格が高すぎるとして訴訟を起こしたことを上げ、「ビジネスの実態を踏まえず処分したことは到底納得できない」と争う姿勢を示した。
武田によると、米アボット・ラボラトリーズと(折半出資して)設立した合弁会社に抗潰瘍薬を販売しているが、同国税局は炊けだの利益配分が不当に低く、所得に合弁会社に移したと認定した。
「不当に安い価格で輸出し、国内で得られるはずの利益を米国に移している」とする当局に対し、「合弁会社は折半出資のため、低い輸出価格で合弁会社の利益を大きくしても、その半分は合弁相手にわたってしまう」と指摘。合弁会社の利益を意図的に含まらせること(注2)は武田グループ外への利益流出を意味し、「経済合理性から言ってありえない」と反論した。
昨年だけでも、移転価格税制で、京セラ(追徴税額130億円)、TDK(同120億円)、ソニー(同45億円)などが追徴課税されており、認定の公平性に対する疑問も産業界にくすぶっている。
武田は、損益計算書に税金費用は計上せず、業績も修正しない。・・・損益計算書上の処理は最終結論をまって検討する。
国税当局の判断が正当となった場合は米国での税金が還付されるため、追徴課税との差し引きが負担となる(注3)。
米国での規定の詳細はわからないが、通常であれば、今回、日米租税条約に基づく相互協議の申立て及び合意がなければ、米国においても減額されることはなく、結果として、二重課税になるのではないか。
日本だけでの争訟手段だけで、正当性を訴えるのは、移転価格税制に限っては、極めてリスクの高いものといえる。その意味で、武田は、課税された段階で、相互協議の申立てもするのではないか。
注1※移転価格税制による追徴課税された場合、通常、異議申立てと租税条約に基づく相互協議を並行して申立て、異議申立てについては、相互協議が不調になった場合に復活させることとすることとされている。
注2※移転価格税制が適用されるかどうかは、意図的な移転かどうかは関係ないこととされている。結果として、所得が移転していれば、理論上課税されることになる。
注3※わが国では、移転価格税制により外国政府から追徴されても、わが国での課税所得の調整は、租税条約に規定する相互協議での合意及び納税者の「更正の請求」に基づいて、減額更正することとされている。